『雪解けのあと』

イントロダクション
  • 「この人生、感謝しているよ――」そう書き遺して親友は山で死んだ。大切な者の死を受け入れてゆくための、長い旅路と祈りの記録
    2017年4月26日、ネパールの山岳地帯で47日間にわたり遭難していた二人が発見された。一人は救助され、一人は発見されるわずか三日前に亡くなっていた。そのニュースは彼らの出身である台湾でセンセーショナルに報じられた。19歳で亡くなったチュンと、生き残ったユエ。本作の監督であるルオ・イシャンは本来なら二人と同行する予定だったが、体調を崩し離脱していた。高校時代からの親友で、憧れの存在でもあったチュンの死。チュンは40日を超す想像しがたい洞窟でのビバークで、イシャンへの手紙や人生に対する賛歌を数百ページにもわたって書き記していた。その記録は、残されたイシャンと、そして生き延びたユエを苦しめ、しかし次に踏み出すそれぞれの道へと促した。ユエは次第に身を引き、イシャンは一人、チュンの見た風景と足跡を追うためにネパールに旅立つのだった――。残されたものたちの深い悔恨と祈りにも似た格闘を、死と再生の狭間で描く、台湾の新鋭ルオ・イシャンによる山岳ドキュメンタリー。
  • 台湾の新しい才能が描く喪失と再生の鎮魂歌。世界各地の映画祭で静かな感動。愛する人の死を悼む、すべての人へ――
    2017年の事故から7年後に本作は完成し、世界各地の映画祭で深い感動を呼んだ。スイスのヴィジョン・デュ・レールでは「ルオ・イシャンは、揺るぎない誠実さをもって、自身の内なる旅路と感情の波乱を冷静で鋭い眼差しでたどっていく」「美しくありながらも胸をえぐるような痛みを伴う映画。深い喪失へのオマージュ」と絶賛。イタリアのトレント山岳映画祭、サンフランシスコのLGBTQ+映画祭を含む世界の20を超える映画祭でも喝采を浴び、ジェンダーと山をテーマにした本作のユニークな存在が実証された。本国・台湾では2024年に公開、インディペンデント・ドキュメンタリーにもかかわらず口コミで広がり、中華圏を代表する映画賞の金馬奨にもノミネート。人を愛すること、その人の死を悼むことを描いた本作に、若者層を中心に静かな感動と共感が拡がっていった。
  • 三人の青春、二つの旅。美しくも容赦ない山々、ジェンダー・アイデンティティ
    高校を卒業して間もない三人の若者は、崇高な山々と旅の解放感に惹かれていた。大いなる自然は、チュンの性自認を認めない女子高の規範からの自由を与えてくれた。それは無限に続くはずの青春だった。「この映画は、生き残った者として語り継ぐ約束を果たしたいという願いから生まれた」というルオ・イシャン監督は、映画に先んじてユエら友人たちとチュンの残した原稿を編集し『我所告訴你關於那座山的一切(あの山について君に話したこと)』(春山出版刊)を出版。2020年台湾文学賞金賞受賞、7回増刷。チュンの詩や随筆は、台湾のネイチャー・ライティングを代表する新人作家としての存在を文学界に刻印した。一部は映画で引用されている。
2017年4月26日、ネパールの山岳地帯で47日間にわたり遭難していた二人が発見された。一人は救助され、一人は発見されるわずか三日前に亡くなっていた。そのニュースは彼らの出身である台湾でセンセーショナルに報じられた。19歳で亡くなったチュンと、生き残ったユエ。本作の監督であるルオ・イシャンは本来なら二人と同行する予定だったが、体調を崩し離脱していた。高校時代からの親友で、憧れの存在でもあったチュンの死。チュンは40日を超す想像しがたい洞窟でのビバークで、イシャンへの手紙や人生に対する賛歌を数百ページにもわたって書き記していた。その記録は、残されたイシャンと、そして生き延びたユエを苦しめ、しかし次に踏み出すそれぞれの道へと促した。ユエは次第に身を引き、イシャンは一人、チュンの見た風景と足跡を追うためにネパールに旅立つのだった――。残されたものたちの深い悔恨と祈りにも似た格闘を、死と再生の狭間で描く、台湾の新鋭ルオ・イシャンによる山岳ドキュメンタリー。
2017年の事故から7年後に本作は完成し、世界各地の映画祭で深い感動を呼んだ。スイスのヴィジョン・デュ・レールでは「ルオ・イシャンは、揺るぎない誠実さをもって、自身の内なる旅路と感情の波乱を冷静で鋭い眼差しでたどっていく」「美しくありながらも胸をえぐるような痛みを伴う映画。深い喪失へのオマージュ」と絶賛。イタリアのトレント山岳映画祭、サンフランシスコのLGBTQ+映画祭を含む世界の20を超える映画祭でも喝采を浴び、ジェンダーと山をテーマにした本作のユニークな存在が実証された。本国・台湾では2024年に公開、インディペンデント・ドキュメンタリーにもかかわらず口コミで広がり、中華圏を代表する映画賞の金馬奨にもノミネート。人を愛すること、その人の死を悼むことを描いた本作に、若者層を中心に静かな感動と共感が拡がっていった。
高校を卒業して間もない三人の若者は、崇高な山々と旅の解放感に惹かれていた。大いなる自然は、チュンの性自認を認めない女子高の規範からの自由を与えてくれた。それは無限に続くはずの青春だった。「この映画は、生き残った者として語り継ぐ約束を果たしたいという願いから生まれた」というルオ・イシャン監督は、映画に先んじてユエら友人たちとチュンの残した原稿を編集し『我所告訴你關於那座山的一切(あの山について君に話したこと)』(春山出版刊)を出版。2020年台湾文学賞金賞受賞、7回増刷。チュンの詩や随筆は、台湾のネイチャー・ライティングを代表する新人作家としての存在を文学界に刻印した。一部は映画で引用されている。
監督
監督・撮影・製作
ルオ・イシャン羅苡珊/LO Yi-Shan
1996年台湾生まれ。国立台湾大学に歴史学の学士号を取得。現代文学、文化人類学、社会科学に影響を受け、大学時代からフリーランスのライター、映画評論家として活動。10代の頃から、台湾の亜熱帯の山森にみられる人間と人間でないものが絡み合いながら共存するあり様に魅了されてきた。大自然の美しさ、残酷さ、複雑さを、独自の視点から伝えることが映画制作の動機となっている。人間と自然の関係に加え、グローバリゼーション、ポストコロニアリズム、ディアスポラの問題にも関心が深い。『雪解けのあと』は初の長編ドキュメンタリー作品となる。
監督ステートメント
『雪解けのあと』は、私にとって初の長編ドキュメンタリーです。
この作品は、愛する人の死に取りつかれ、大自然と山々の中で生きることの意味を模索する二人の若者の姿を追う、
友情と喪失をテーマにした東洋人の物語です。ジェンダーやアイデンティティの葛藤を描いてもいますが、
この葛藤は世代や国籍を超えて人々に共通するものだと思います。
制作・編集の期間に日本から多大な支援をいただきました。
特に、後に本作の共同プロデューサーとなった藤岡朝子さんが
大蔵村肘折温泉で主催する山形ドキュメンタリー道場のインパクトは大きかったです。
息を呑むような雪山に囲まれた、静かな集落を毎日歩いた滞在経験は、
この映画のエッセンスに大きな影響を与えました。
日本でこの映画を紹介することをとても楽しみにしています。
コメント
『雪解けのあと』は、愛と死、そしてその痛みを描いた物語である。死を迎える直前に残されたチュンの真摯な言葉、そして生き延びた二人の心に深く刻まれた傷が記録される。生と死の問題に正面から向き合ってはいるが、映画には余白が与えられている。観客は、雪解けの過程を見守るように少しずつ自身の心の傷も癒やしていき、最後には勇気を持って劇場を後にすることができるだろう。採録されている雪の環境音は、ネパールの美しい自然の風景を通しての“死”の痛みの悲しさ、そして安らぎをも表現している。
台北映画祭2024審査員ステートメントより
私たちは止まることのない永続的な喪の一形態、喪失を象徴する純白さを目撃しているのだろうか? その疑問は未解決のままである。白さは悲劇的な結果につながる可能性があるが、宙吊り状態も表している。この状態は、痛みを伴うこともあるが、個人が通常の社会的表象の制約から一時的に離れることを可能にする。宙吊り状態は、世界と交流することの喜びを再発見するイシャンの映画を特徴づけている。
ベルトラン・タポレ
Lapepiniere/スイスメディア
イシャンは、弔いにはさまざまな形があり、さまざまな折り合い方があり、それらがすべて有効であるという道を示している。それはつらくとも必要なことなのだ。
デバンジャン・ダール
High on Films/インドメディア
謙虚な姿勢ながら、監督のチュンへの敬愛が強く表現されている。性自認をめぐる三人の関係は複雑で把握しにくいが、お互いが強い絆で結ばれていることが印象的。『突然炎のごとく』のような、友情と愛情が混在する関係性を思わせられた。
カトリーヌ・デュサール談
プロデューサー、TOKYO FILMeX2024審査員